モデルからヘッジへ
オプションの価値は、それをヘッジするコストです。このラボでは、SPYの価格でその流れ全体をたどります。まず日次リターンから幾何ブラウン運動を推定します。ボラティリティ σ は、リターンの標準偏差を年率に直したものです。価格のドリフトは μ=r̄·252+σ²/2 で、余分な σ²/2 は伊藤の補題から来ます。対数価格は価格そのものよりゆっくり増えるからです。次に、正規乱数の行列から経路を、厳密な手法とオイラー法で1回ずつシミュレートします。同じ乱数が両方に入るので、経路ごとに比べられます。
Sₖ₊₁=Sₖ e^((μ-σ²/2)h+σ√h z), Sₖ₊₁=Sₖ (1+μh+σ√h z), h=T/n
次に、コールを2通りで価格付けします。ブラック-ショールズ公式は、リスク中立測度のもとでの厳密な平均です。モンテカルロは、ドリフト r でシミュレートし、ペイオフを平均して割り引くことでそこに近づきます。厳密にはならず、標準誤差程度のずれが残ります。最後にヘッジします。コールを売り、Δ 株を買い、残りを現金で持ちます。リバランスの日ごとに、現金を金利 r で増やし、残り時間で Δ を計算し直して持ち高を合わせます。満期での誤差は、ヘッジが取りこぼした分です。
Vₙ=C₀exp(rT)+ΣⱼΔⱼ₋₁(Sⱼ-Sⱼ₋₁exp(rh))exp(r(T-tⱼ)), e=Vₙ-max(Sₙ-K,0)
実データが示すこと2005年以降のSPYでは、年率で μ≈11.6%、σ≈19.0% です。株価 100、行使価格 100 で満期3か月のコールの価値は約 4.03、デルタは 0.54 です。シミュレーション市場でのヘッジ誤差の標準偏差は、リバランス3回で 1.79、9回で 1.08、21回で 0.70、63回で 0.44 となり、おおよそ 1/√n のように減ります。実際の85四半期では 1.81、1.71、1.59、1.74 で、回数を増やしても改善しません。理由はボラティリティが一定でないことです。四半期の実現ボラティリティは 6% から 70% まで動いたのに、ヘッジは毎回 19% を使っていました。
- 厳密解とオイラー法:同じ乱数から2本の経路ができる。その差が前のトピックの離散化誤差。
- 価格=ヘッジのコスト:連続的に取引できれば完全なヘッジ、リバランスが少ないと 1/√n 程度の誤差が残る。
- 実際の誤差はボラティリティの誤差:リバランスを増やしても誤った σ は直せない。
覚えておくべき単純化金利は 2% に固定し、取引コストや配当はありません。ヘッジは標本全体のボラティリティを使いますが、これは誰も事前には知り得なかったので、実際の誤差はむしろ甘めです。85四半期は少なく、市場の局面とも独立ではありません。ここで大事なのは金額ではなく結果の順序です。
ラボ:採点される内容
- モデルを推定する10点
- 厳密な経路15点
- オイラー法の経路10点
- ブラック-ショールズのコール15点
- デルタ5点
- モンテカルロ価格10点
- ヘッジ25点
- ヘッジの検証10点