シグナルの固有値とノイズを見分ける
リターンが構造のない純粋なノイズだったとしても、相関行列の固有値は既知の区間、すなわち λ±=(1±q)2、q=N/T のマルチェンコ・パスツール区間 [λ−,λ+] に広がります。この区間が物差しです。標本相関行列の固有値が λ+ を超えていれば、ノイズでは説明できない大きさなので本物の共通ファクターを反映しています。区間内の固有値はノイズと区別できず、その固有ベクトルは将来について何も教えないランダムな方向です。
λi′={λi,λˉnoise,λi>λ+λi≤λ+,λˉnoise=k1λi≤λ+∑λi,Cclean=QΛ′QT(1) 固有値のクリッピングはこの判定に基づいて行います。λ+ を超える固有値は残し、それ以外はすべてそれらの平均 λˉnoise に置き換えます。これはスペクトルのノイズ部分を平らにすることです。0にせず平均にするのは、トレース(相関行列では N)を保ち、行列を正定値に保って逆行列を取れるようにするためで、最適化にはこれが必要です。その後 Cclean=QΛ′QT を再構成し、置き換えで対角が少し変わるため、対角がちょうど1になるよう再スケールします。よく使う改良が2つあります。市場モードが分散を吸収するので、ノイズ水準は1ではなく実際には σ2≈1−λ1/N です。またマルチェンコ・パスツール則は独立な観測と細い裾を仮定するので、端は目安であって厳密な検定ではありません。浄化した行列は標本外で確かめてください。
4資産・16観測N=4、
T=16 とすると
q=0.25、
λ+=(1+0.5)2=2.25 です。標本相関行列の固有値が
2.60,0.80,0.40,0.20(合計
N=4)だとします。
2.25 を超えるのは
2.60 だけで、これが共通の市場ファクターというシグナルの固有値です。残る3つはノイズで、平均は
(0.80+0.40+0.20)/3=0.4667。浄化後のスペクトルは
2.60,0.4667,0.4667,0.4667 で、合計は4のまま、最小固有値は
0.20 から
0.47 になり、条件数は
13 から約
5.6 に下がります。より大きな問題で
q=0.4 なら上端は
(1+0.4)2=2.665 です。
- 端:(1+q)2 を超える固有値はシグナル、区間内はノイズ。
- クリッピング:ノイズの固有値を平均で置き換え、トレースと正定値性を保つ。
- 仕上げ:QΛ′QT を再構成し対角を1に再スケール。必ず標本外で検証する。
目安であって判決ではない実際のリターンは裾が厚く、ボラティリティも時間とともに変わるため、ノイズの固有値は理論上の端を越えて広がります。λ+ は残す成分数の妥当な出発点のしきい値とみなし、浄化が本当に役立つかは標本外の検証で決めましょう。総仕上げではまさにそれを行います。 ラボ:採点される内容
- 上端15点
- シグナル固有値の数10点
- 置換値15点
- トレースは保たれる10点
- クリッピングの手順15点
- なぜ平均か15点
- 端を超える固有値の意味20点